夜風のような君に恋をした
だけど。

「本当は、ずっと気づいてたの、あなたが無理をしてるってこと。でも、見て見ぬフリをし続けた。そうすれば、私の気持ちが楽になるから」

予想だにしていなかったお母さんの言葉に、みるみる作り笑いが引いていく。

「無理、なんて……」

ついに言い返せなくなった私の気持ちをわかっているかのように、お母さんは泣きそうな顔で、けれども優しい笑みを向けてきた。

「こんな私が何を言っても心には響かないかもしれないけど……。これだけは覚えていて。あなたがここにいてくれてるだけで、お母さんは幸せなの」

お母さんにこんな温かい言葉をかけてもらえたのは、いつぶりだろう。

あまりも急な変化で、素直には受け入れがたいけど、心の奥の何かがほどけたみたいに心がほわっと軽くなる。

「うん……」

どうしよう、泣きそうだ。

涙をこぼすものかと、必死に唇を引き結んで耐える。

お母さんのつらさが今さらのように身に染みた。

お兄ちゃんのことで悩んで悩んで、だからこそ、お母さんの心はもろくなってしまったのだ。

誰が悪い?なんて考えても、答えは見つからない。
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