夜風のような君に恋をした
彼女がいる冬夜は多分本当は死にたがりなんかじゃなくて、私に同情してくれているだけってこともわかってる。

でも、それでも。

「私、冬夜に出会えてよかった」

まるで、長い間閉ざされていた心の蕾が花開くように。そのとき私は、自分でも驚くほど素直に笑っていた。

どこからか、夜の香りを風が運んでくる。

甘い花のような、みずみずしい夜露のような香り。

すると冬夜も今度は照れることなく、まっすぐに私を見返してくれた。

「うん、俺も」

薄黄色の車のヘッドライトに、信号機の赤や青。

暗闇に浮かぶ色とりどりの光は、今日も消えることなく夜の世界で輝いている。

まるで闇に埋もれないよう、必死にもがいている私みたいだ。

私はきっと、本当は、闇に溶けたかったんじゃない。

私を照らして導いてくれる、一筋の光を求めていた。

ちょうどそう。

目の前にいる、この人のような――。
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