夜風のような君に恋をした
……――フッと深い闇にすべてが覆いつくされ、一瞬の空白の後、視界が舞い戻る。

私は、たったひとりで、誰もいない夜の高架に立っていた。

『ん? どうかした?』と首を傾げたばかりの冬夜の姿は、もうどこにもない。

茶色い短髪の彼もいない。

ふたりとも、ほんのつい先ほどまでいた気配すら、まるきり残されていなかった。

甘い花のような、みずみずしい夜露のような。

優しい夜の香りが、変わらず漂っているだけ……。

どうしようもなく、足先が震えて、立っているのもやっとだ。
 
冬夜が一輝と呼んだ彼は、どこからどう見ても、私のお兄ちゃんだったから。
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