夜風のような君に恋をした
佐原一輝、二十一歳。

名前だって一緒だ。

だけど今しがた霞のように消えてしまったお兄ちゃんは、どこからどう見ても、私と同じくらいの年にしか見えなかった。

まだ引きこもりになる前の、明るかった高校生の頃の彼にしか……。

「どういうこと……?」

胸の動悸が激しくて、うまく息ができない。

私は欄干に両手を預け、無我夢中で呼吸を整えた。

放心状態で、震える手元を見つめる。

そしてふと、欄干の塗装が、少しはがれていることに気づいた。

普段はそんな小さなこと、意識していない。

だけど以前冬夜といたとき、意外な塗装の新しさに気づいたことがある。

塗り替えたばかりなのだろうとそのときは気にもしなかったけど、不思議な現象を目の当たりにした今は、ああ、と心の奥で納得している自分がいた。

欄干に手を乗せたまま、おそるおそる前を向く。
< 145 / 232 >

この作品をシェア

pagetop