夜風のような君に恋をした
片道二車線の道路を行き交う薄黄色の車のヘッドライト、信号機の赤や青。窓明かりを灯しながら立ち並ぶビルや家々。

見慣れた夜の光景……のはずなのに。

「マンションが、ない……」

夜の闇に吐き出された私の声は、みっともないほどに震えていた。

冬夜が心の拠りどころだと言っていた、おばあちゃんのマンション。

以前明るい時間に探したときは、昼と夜とでは景色が違って見えるから、探し当てられなかったのだろうと思い込んでいた。

だけど、冬夜と眺めたそのままの景色を見ているはずの今でさえ、はっきりと違和感を覚える。

昭和に建てられたような、老朽化した白のマンションは、いくら探しても、やっぱりどこにも見当たらない。

前は気づかなかったけど、見た覚えのないタワーマンションも、いくつか建っていた。

ふと見上げた空には、煌々と輝く半分の月。

さっきまで、三日月だったはずなのに――。
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