夜風のような君に恋をした
リビングから呼び声が聞こえたから、お母さんがお風呂に入っているわけではない。

仕事が忙しいお父さんは、こんな時間にお風呂に入ることははずない。

つまり今お風呂に入っているのは、お兄ちゃんだ。

――今しかない。

私は迷わず階段を上った。

「雨月? ご飯食べないの?」

背中から、お母さんの叫び声がする。

「今日は先に宿題終わらせてから食べるから! ごめんね、ママ」

無我夢中で叫ぶと、お母さんが「しょうがないわね~」とつぶやき、リビングのドアをパタンと閉める音がした。

――急がないと、時間がない。

私は鞄を廊下に置くと、自分の部屋ではなく、迷わずお兄ちゃんの部屋に入った。

壁のスイッチを押して電気をつけると、意外と片づいている室内が露わになる。

青い布団に、枕、テレビのリモコン。

壁には数年前に活躍した外国のサッカー選手のポスターが貼られていて、その手前に置かれたスチールラックには、トロフィーと盾がひとつずつ並んでいる。

同じラックの下の方、本や漫画が雑多に入れられている箇所に、私はくまなく目を馳せた。

いろんな緊張が混ざり合って、ドクドクと鳴る心臓が耳にうるさい。

「あった……」

やがて私は、ラックの一番下に、積み重なった雑誌の奥に隠れるようにして入っていたお兄ちゃんの卒業アルバムを見つける。

お兄ちゃんは高校を卒業していないから、小学校と中学校のときのしか見当たらない。
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