夜風のような君に恋をした
冬夜の写真に見入っていた私は、ハッと我に返ると、急いで卒業アルバムをもとに戻す。

そして電気を消して、足音をたてないように注意しながら、お兄ちゃんの部屋をあとにした。

自分の部屋に入るなり、ドアに背を預けるようにして、ズルズルとその場に座り込む。

そして電気もつけないまま、鞄からスマホを取り出すと、震える手で検索サイトを開いた。

市ヶ谷冬夜。

指先がおぼつかないせいで、その名前を入力するのに、ずいぶん時間がかかった。

現れた検査結果をスクロールした私は、とある見出しを見て、全身を刃で貫かれたような衝撃を受ける。

【十六歳の高校生、夜の高架から落下し死亡】

「……っ」

息を殺しながら、そのサイトを開く。

五年前の十月八日のその記事には、市ヶ谷冬夜という高校生が、昨夜あの駅前の高架から落下したという悲しい事故について、端的に記されていた。
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