夜風のような君に恋をした
喉元が絞られたような感覚に陥って、胸の前でぎゅっと掌を握る。

ここは彼の存在しない世界なのだという事実が、迫りくる波のように容赦なく私を襲う。

泣きじゃくりたい衝動が、胸の奥から突き上げた。

苦しい、悲しい、つらい。

心がぐちゃぐちゃになって、今にも消えてしまいそうだ。

お兄ちゃんはひきこもりのニート、でも生きている。

お母さんはいつも泣いてばかり、でも生きている。

そして、死にたがりで、毎日に絶望してばかりの私も、結局のところ生きている。

でも、冬夜はどこにもいない。

意地悪く笑うことも、照れたようにうつむくこともない。

気まぐれな優しさを見せることも、私がしばらく来なかったからって、子供みたいに泣きそうな顔をすることもない。

まるで夜の風にさらわれてしまったかのように、私のそばから忽然といなくなってしまった。

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