夜風のような君に恋をした
二年……いや、もっと前からか。

最初は家での居場所を見失い、思いつきで夜の街に飛び出したのがきっかけだった。

たまたま通りかかったあの高架で、そういえば子供の頃父さんに、『あのマンションの五階が母さんの昔住んでいた家だよ』と言われたのを思い出して、それからは心の拠りどころを求めるように通い続けた。

週に三回、いや、もっとかもしれない。

雨月も、塾に通い出したばかりという雰囲気ではなかったから、塾の行き帰りにあの高架を通るようになってしばらく経っていたんだと思う。

なのに俺たちは、ある日突然、あの場所で出会った。

この違和感が何を意味するものか俺にはわからなかったけど、胸がそわそわして仕方がない。

急に雨月が遠いところに行ってしまったような虚無感に駆られたんだ。

雨月が塾のある日の夜にあの高架に行っても、もう二度と会えないんじゃないかって……。
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