夜風のような君に恋をした
窓の向こう、水色の空を、白い雲が気持ちよさげに泳いでいる。

――五年。

冬夜がこの世からいなくなって、そんなにも長い年月が経っていたのに、この世界はあの頃と変わりなく動いている。

いつものお天気キャスターが、スタジオのメインキャスターとやり取りしながら、楽しそうに笑っていた。

誰かが泣いている裏で、誰かが笑っている。

矛盾だらけで残酷なこの世界がつらい。

冬夜と同じように、私も逃げ出してしまいたい。

終わりのない闇に身をゆだね、色とりどりの夜の光と一体化して、永遠になりたい。

《○○さん、お気づきになられましたか? これ、実は五年前のカレンダーなんですよ》

そのとき、お天気キャスターの声が、ぼんやりとした意識に刺さった。

五年前――その言葉に引き寄せられるように、うつろな目をテレビに向ける。

どこかの建物の前に、白のジャケットを羽織ったお天気キャスターのお姉さんが立っていた。

両手にひとつずつカレンダーを持って、笑みを浮かべている。

《へえ~、そうなんですね。カレンダーがまったく一緒の年ってあるんですね》

画面の下方に小さく映っているスタジオのメインキャスターが、感心したように言った。

(うるう)年の関係で、三月から十二月までの期間限定ですけどね。めったに見られない奇跡らしいですよ》

《奇跡! 素敵じゃないですか》

その様子を眺めながら、私はふと、以前耳にした冬夜の声を思い出す。

――『じゃあ、開催日は月・水・金だ』
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