夜風のような君に恋をした
「ずっと、待ってたよ」

初秋の夜風のような、優しい声だった。

「雨月が、俺の知ってる、死にたがりの雨月に戻るのを」

私は、頬にある彼の手に、そっと自分の手を重ねた。

それから、ゆっくりとかぶりを振る。

「私は冬夜の知ってる雨月だけど、もう死にたがりじゃないよ」

すると冬夜は目を細めて、ゆるりと微笑んだ。

「そっか、そうだったな」

どこかうれしそうな彼の声。

「ずっと、あの夜の返事がしたかったんだ」

「うん」

「俺も、雨月が好きだよ」

「……うん」

「急に老けたけど、いやじゃない?」

そんな風に冗談を言っている冬夜が愛しくて。

奇跡みたいなこの瞬間が幸せ過ぎて。

私は泣きながら笑って「いやじゃないよ」と答えた。
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