夜風のような君に恋をした
むしろ、彼のその発言に興味を持つ。

“死にたがりの自分を大事にできるように”という彼のその一見してわけわからない言葉は、どういうわけか胸に心地よくて、ズタボロな心に微かな光が灯ったような気になった。

「いいよ」

頷くと、彼はほんの少し口角を上げて、またあの意地悪な笑い方をする。

「それじゃあルールを話すよ。まずは、この場所で会ったとき、”今日あったいい出来事“をひとつだけお互いに報告すること」

「うん、それから?」

「お互い、死にたい理由を聞かないこと」

「わかった。他には?」

「他には――」

そこで彼はひと息ついて、どこか遠い目をした。

「どちらかが死んでしまったら、それで解散」

うん、と私は深く頷く。

残酷ともとれる彼のその一言に胸の奥がチクッとしたけど、そりゃそうだと思っている自分もいた。

「わかった」

「この高架には、いつ来るの?」

「塾がある、月・水・金曜日だけだよ」

「じゃあ、開催日は月・水・金だ。“今日あったいい出来事”何か話してみて?」

「私から? うーん、いい出来事か……」

両手を置いた欄干を見つめながら、今日一日に思いを巡らせる。

最近塗り替えたばかりなのか、近くで見ると、思いのほか塗装が新しい。
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