夜風のような君に恋をした
まだ小学生の頃は、多少の気は遣っても、そこまで気にならなかった。
寒気がするほどの居心地の悪さを覚えたのは、自分の家庭の異常さに気づいた中学生の頃だ。
恵里さんの電話を、たまたま立ち聞きしたのがきっかけだった。
『うん、うまくいってるわ。宵も元気に育ってる』
リビングの真ん中で、こちらに背中を向けた恵里さんが、うん、うん、と相手からの声に頷いている。
おそらく、友達とでも話しているのだろう。
何となく話の内容が気になって、俺は階段の途中で足を止め、恵里さんの声に耳を傾けた。
話題が他のことに移ったのか、恵里さんの声がややトーンダウンする。
『うーん、やっぱりどこかぎこちないっていうか……』
廊下にいる俺の存在には気づいていないはずなのに、声を潜める恵里さん。
『やっぱりどう頑張っても、自分の子供には思えないわよね。ええ、努力はしてるわ。でもあの子、なんだか他人行儀で……いつまでたっても懐いてくれないのよね。正直あの子がいなくて家族三人でいれるときはホッとしてる』
心臓に亀裂が入ったような心地になった。
“あの子”とは、十中八九俺のことだろう。