あやかし戦記 愛ゆえの選択
その後、イヅナはエイモンとヴィンセントと再び旅館の中を探索する。しかし、妖が出そうなところはいくつかあったものの、妖の気配すら見つからなかった。
「まあ、初日はこんなもんだよ。人が行方不明になってるからって焦っても何も得られない。まずは自分が落ち着いて周りを見ないとね。じゃないと、助けられる命も助けられないから」
部屋に戻ってエイモンがお茶を淹れながら言う。部屋に置かれているお茶も、マオ国で生産されているものだ。
「でも、行方不明になった人たちはもう……」
湯飲みを持つイヅナの手が震える。行方不明になった人は、ツヤとレオナードが調べてくれただけで三十人以上いる。本当はもっと多いのではないか、そんな考えが頭によぎった。すると、ヴィンセントに手をそっと握られる。
「イヅナ、確かに守れない命だってある。僕たちは神様じゃない。全員は救えないんだ。僕はそう思うよ。仕方のないことだって。でも、イヅナはーーー」