あやかし戦記 愛ゆえの選択
ヴィンセントのもう片方の手が、ゆっくりとイヅナの頬に触れる。ヴィンセントの手のひらはとても温かく、大きい。イヅナの心拍が上がっていく。

「関わったことのない、ただ名前だけしか知らない人間のことをそれだけ考えられるイヅナは、きっと誰よりも優しい。僕はそんなイヅナをすごいと思っているよ」

ヴィンセントに微笑まれ、イヅナの顔に熱が集まる。ヴィンセントは何だか様子が変だ、そう思いながらイヅナは「あ、ありがとう?」とぎこちなくお礼を言う。何故かまともにヴィンセントな顔を見ることができなかった。

「ねえねえ二人とも、夕食の前にお風呂にする?それとも夕食の後にする?」

僕もいるんだけどな、と言いたげな笑顔でエイモンが間に入ってくる。ヴィンセントは少し残念な顔を見せ、イヅナは「すみません」と何度もエイモンに謝った。



話し合いの結果、イヅナたちは先に夕食を食べることになった。夕食は一階にあるレストランで食べることになっている。

レストランに入ると個室に通された。イヅナたちの国とは違い、マオ国のレストランのテーブルは大皿料理をシェアするために回転するようになっている。
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