あやかし戦記　愛ゆえの選択
「チターゼさん」

イヅナが声をかけると、無表情なチターゼと目が合った。しかし、ここでは他人だろうと言わんばかりに目を逸らされ、無視されてしまう。

同じアレス騎士団の仲間として、協力し合いたいのにできない……。そのことがイヅナの心を抉る。チターゼの言葉に傷付けられた傷が、またズキッと痛みを放った。

「……どうすればいいの？」

イヅナの問いに答えてくれる者はいない。



旅館の経営者であるハオランは、社長室にこもって仕事をしていた。高級旅館であるここシャオゴウは、毎月お金持ちのお客さんが訪れてくれる。来月も予約でいっぱいだ。

「……ハァ」

ペンを紙に走らせていたハオランはその手を止め、凝り固まった肩を自分の手で揉む。妻が生きていた頃は、よく揉んでくれていたなと懐かしい思い出に浸っていると、ドアがゆっくりと開いた。

「お父様」

可愛らしい犬のぬいぐるみを抱き締め、寝る時に着る浴衣に着替えたユエが入ってきた。ハオランは立ち上がり、ユエの前でしゃがみ込む。すると、ユエがハオランに抱き付いた。
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