あやかし戦記 愛ゆえの選択

「おやすみなさい、お父様」

「おやすみ、ユエ。昼間は発作が起こって大変だっただろ。ゆっくり休むんだぞ」

ユエの頭を優しく撫で、ハオランは小さなその体を抱き締める。亡き妻が残してくれた宝物だ。決して悲しませたり、辛い思いはさせたくない。ハオランがここまで頑張れたのも、全てユエというハオランの心を照らす存在があったからだ。

「ねえ、お父様。明日は旅館の外で遊んでもいい？」

ユエがハオランから体を離し、真っ黒な瞳で見つめる。その目には何の穢れも欲もない。ハオランは困ったように笑い、ユエの頭にもう一度手を置く。

「外に出て発作が起こったら大変だろう？手術ができるまでは、ユエはここにいなくちゃいけないんだ」

「は〜い」

ユエは残念そうな顔をして、ハオランの部屋を出て行く。すると、入れ違いに一人の男性が社長室に入ってきた。

「娘さん、久々に見たけどやっぱり可愛い子だね。大人になったら男が放っておかないんじゃないかな？」

そう笑いながら言う男の髪は白く、頭には小さなシルクハットを乗せている。黒いマントのついたタキシードを着こなし、微笑んでいた。

男性はどこか怯えた表情を見せる男の前に、小さな袋を投げる。床に落ちた袋はチャリンと音を立て、少し緩んだ袋の口からは硬貨が出てきた。