あやかし戦記 愛ゆえの選択

「うわ、厄介なのが泊まってるなぁ。よし！この子を四凶に喰ってもらうね」

男性がハオランにリストを突き付ける。そこにあった名前には、チターゼ・グランツと書かれていた。

「……は、はい……」

ハオランは力なく頷くしかない。男性は満足そうに微笑む。刹那、男性の顔から微笑みが消えた。鋭い目で社長室のドアの方を見つめ、舌打ちをする。

「今日はもう帰るね。おやすみ〜」

男性がそう言い、体が煙のようなものに包まれて消える。その刹那、「失礼します」と焦ったような声とドアが開く音がハオランの耳に届いた。

「社長、大丈夫ですか？」

お茶の入った湯飲みをおぼんに乗せ、入って来たのは最近この旅館で働き始めた新人であるツヤである。ツヤは鋭い目で部屋中を見渡していた。

「だ、大丈夫だよ。それよりどうしてここに？」

「話し声がしたので、お客様が来ているのだと思いまして。お茶を淹れたのですが……」

「お客様なんて来ていないよ」