合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~
作り物の笑顔(九)
ややうつむいて、ぼんやり考え事をしていた瑞葉に声をかける。
暗い感情を押し殺し、ただにこやかな声で。
そう、いつものように。
「やだぁ、雨降ってきたしー。傘ないのに、最悪」
母の言ったいことは正解だったのか。
入れてもらえる人なんていないのだから、見栄を張らずに折り畳み傘でも持ってくれば良かった。
信号を渡り始めたあたりで、ぽつぽつと雨が降ってきた。
先ほどまでせわしなく鳴いていた蝉の声は消え、アスファルトから雨の匂いが立ち込める。
「もー、急がないと」
わたしは小走りで信号を渡りだす。
そこに微かに、横から来るトラックが見えた。
向こうの側の信号はまだ赤だ。
それなのに携帯か何かに気を取られているのか、トラックがスピードを緩める気配はない。
トラックには気づけても、この距離ではわたしはもうどうすることも出来ない。
……どうでもいいや。
全てに疲れてしまった。
心の中で、わたしは小さくため息をついた。