合わせ鏡の呪縛~転生して双子というカテゴリーから脱出したので、今度こそ幸せを目指します~
主役(六)
心がぎゅっと縮み、思わず泣きそうになる。こんなことなら、既製品でも何でもいいから、他の物を着ればよかった。
「あなた、そんな言い方ダメですよ。ソフィアには、ちゃんと最後まで分かりやすく言わないと伝わらないと、何度教えたら分かるのですか」
後ろからやって来た母が、ため息交じりに父へ苦言を呈す。
母が父に意見しているのを、私は初めて見た気がする。
しかし先ほどのセリフから、何度も言われているようだ。
「いや、だから、その……だな」
「もぅ、仕事のことならなんでもズケズケと言えるくせに、娘のこととなると何でそうなるのですか。ソフィア、あなたが誤解しているだろうから、この人の言葉を代弁してあげると、その裾の短いドレスはどうしたのだ。そんな短いドレスを着て、何かあったらどうするんだ。と、言いたいのよ。あなたがあまりに綺麗なものだから、お父様は心配で仕方ないのよ」
「綺麗……心配……。そうなのですか? お父様」
「当たり前だろう。誰か言い寄ってくるような奴がいたら、すぐに言いないさい」
「うふふふ、お父様はあなたのその姿に惚れて言い寄ってくる輩は、みんなお断りして二度と近づけないようにするってよ」
なんだ……。
急に肩の力が抜ける。先ほどまでのすごく嫌なもやもやした胸のつかえは、どこかに消えていた。
代わりに、そこには温かいものが占めている。
父は、私を非難したわけではなく、ただ心配していただけ。
そんな些細なことだけで、すごく満たせた気がする。
瑞葉の時も、こんな風にちゃんと話をしていたら、もっと違った親子関係になれたんじゃないのかな。
今になっては、それは仮定の話でしかなく、もう二度と分かることはないのだろうけど。