廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
ローリーは私の手を引いて踵を返した。
しかし、いつの間にか二人の男に背後を取られていて、退路がない。

「なっ!?」

「逃げられはせん。言っただろう?『ワシら』と。複数人いることを警戒すべきだったな」

背後から老人の不敵な声が聞こえる。
前門の虎、後門の狼。
挟撃され立ち尽くすローリーと私に、奴隷商人たちが迫る。
前にいる大柄な男と猿のように小柄な男は、湾曲した刃物を手に距離を詰めて来る。
残念ながら、刃物は芝居の小道具ではなさそうだ。

「なんのつもりですか!?こ、こんなことをして、ただではすみませんよ!」

ローリーは声を張り上げた。
でも、今日博物館は休館日。
大声を出しても、周りには誰もいない。
レグナント軍の兵士も、まだこの区域までは捜索の手を伸ばしていないようだ。

「うるせぇ黙れ!よぉ、お頭。メイドはどうする?拐うのは男のガキとこのチビだけだったろ?」

ニヤニヤしながら男の一人が言った。
老人は、どうやら奴隷商人の元締めらしい。でもそんなことより「男のガキ」という言葉のほうが気になった。
もしかしたら、セドリックがいなくなったのは、事故なんかじゃなくて奴隷商人たちの仕業かもしれない。
貴重価値のある人間を探していると言ったもの。
セドリックのような天才を見逃すはずがない。
どこを探してもいなかったのは、故意に隠されていたからでは……。
< 183 / 228 >

この作品をシェア

pagetop