廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
「ここに残しても面倒になるだけだ。予定外だが連れていく。多少の金にはなるだろう」

「了解。良かったな、死体になるのは免れたぜ?まぁ、幸せな未来は待っていないがな」

男は薄ら笑いを浮かべた。
その表情にたとえようもない嫌悪感を抱いた。
人が悲しむ顔や苦しむ顔が大好物だ、と言わんばかりの表情。
最悪最低のクズである。
奴隷商人に対する怒りが、あらゆる感傷を一時的に消した。
母のことも、私のことも。
一旦忘れて冷静に、今出来る最善をつくさなければ。

「ねぇ?男のガキって言ったわよね?もしかして、セドリック・イエーレンのこと?」

「そうだ。あのガキは天才だそうだな。そういうのは高く売れる。まぁ、お前ほどではないがな」

私の質問に老人が答えた。
高く売れるだなんて……どこまで下衆なのかしら!
でもここは、怒りを抑えて冷静に探りを入れて話を引き伸ばそう。
そうしているうちに、軍の兵士が気付いてくれるかもしれないからだ。

「でも、セドリック様の姿は見えないようだけど?」

捕らえられているなら、いったいどこにいるのか。
それを知りたかったのだけど、老人はうまくそれをかわした。

「ふん、心配するな。大切に保管している。これからお前たちも同じ状態になるのだからな」

「……保管?同じ状態?」

捕まえているとか、拘束じゃなくて「保管」ってどういう意味かしら。
なにか、気味の悪い言葉に寒気を覚えた。
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