廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
わかった……この樽、二重底になっているんだわ。
下に拐った人を隠して、上にカモフラージュで調味料等を詰める。
「保管」というのはこういうこと。
男たちがやっているのは検問を抜けるための工作だ。
さすが、何十年も逃げ延びている奴隷商人。
やることが姑息で汚い。
憎しみを込めて睨み付けていた私を、男は淡々と縛り上げ、物のように樽に詰めた。
本当に人間だと思ってないんだわ。
そう思うと沸々と怒りが込み上げる。
なんとかして奴らから逃げ、レグナント軍やダリオンに捕まえて貰わないと!
私は必死で頭を働かせた。
闇に閉ざされた視界の中を、ゴトゴトと馬車が走り出す。
なめらかな緑の芝生の上は振動がなく、石畳へと出た途端、体を打ち付ける揺れが来る。
そうやって私は、居場所を肌で感じ取っていた。
体の傾きで右か左かを見極め、坂か平坦かを微妙な傾きで判断する。
ダリオンとの勉強会で、行政区や商業区の地図はだいたい頭に入っていて、今どの辺りなのかは感覚でわかる。
このまま少し行くと、第三の検問所に差し掛かるはずだ。
そこは賑わいのある商業区から、少し静かな住宅区域との境目にある検問所である。
住宅区域を抜けると、次は最後の外門しかなく、ここを通過されるとルミナリエスから出てしまう。
そうなると追おうにも、捜索範囲が広すぎて難しくなってしまうのだ。
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