廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
ーー「捨てられ姫」

いつしか私は、そう呼ばれるようになっていた。
でも、目立たず騒がずひっそりと生きていれば、少なくとも王妃やナリスの反感は買わない。
女同士の争いがどんなに過激で、生々しく非道か……誰よりわかっている。
私には、生まれた時から前世の記憶があった。
数々の受賞歴がある、アラサー女優としての記憶。
どういう最期を迎えたのかは覚えていないけど、嫉妬や陰謀蠢く世界で生き抜いてきたのはハッキリと記憶している。

城を攻め落としたレグナント軍は、フェルナンシアの大広間に王家の者を集めると、敵国総司令官の前に引き出した。
総司令官の隣には、黒いプレートアーマーを纏った大きな戦士がいて、私たち王家の者を眼光鋭く見つめていた。
兜の隙間から覗く瞳は青色。
恐ろしい姿であるのに、何故かその瞳には惹き付けられた。

「敗戦国フェルナンシアに、先勝国レグナントより通達する」

総司令官は淡々と通達書を読み上げた。
優男風であるが、目の奥に冷徹な光が見える。
恐らくこれが、レグナントの第二王子ユグリス。
切れ者と噂の人物だ。

「フェルナンシアはレグナントの属国となる。尚、統治は私、ユグリス・レグナントが行い、国王、王妃はレグナントの離宮にて幽閉される」

その言葉に、青ざめていた国王と王妃の顔はパッと明るくなった。
敗戦国の王など、生かしておいても面倒なだけのこの世界。
当然命はないだろうと考えていた二人は、なんとか生き延びたことに安堵したのである。
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