廃屋の捨てられ姫は、敵国のワケあり公爵家で予想外に愛されています
「あの……ダリオン様はどうして子どもや女性が嫌いなのですか?」

以前なら、こんなこと絶対に聞けない。
だけど、今のダリオンになら聞ける気がした。
私の質問に、彼はまたテーブルのランプに目をやった。
考えを纏める時の癖なのだろうか?
ゆらゆらと揺れる炎を見つめ、訥々とダリオンは語る。

「……両親の葬儀の時は、とても寒い日で小雨が降っていた。私は、悲嘆に暮れて家から出なくなってしまったお婆様に代わり、葬儀を取り仕切らねばならなかった。もうエスカーダ家当主だ。泣いている暇などない、情けない姿は見せられない……そう思った」

一旦そこで口をつぐみ、また続ける。

「そんな私の決意とは裏腹に、葬儀に参列した貴族たちは、ずっと政治の話をしていた。中には大声で笑う者もいる。内心、政敵が死んで嬉しかったのだろうな。奴らに付いてきた女たちは見せかけの同情で啜り泣き、扇の裏でほくそ笑む。連れて来た子供たちは、つまらないから早く帰ろうと煩く泣く……」

青い瞳に真っ赤な炎を宿すダリオンは、いつもの彼とは違い弱々しく見えた。
私はかける言葉を失っていた。
ご両親が亡くなった時、彼はまだ少年だったはず。
それなのに、おばあ様に代わり気丈に葬儀を取り仕切り、泣きたいのに泣けず、内に悲しみを抱え込んでしまったのだ。
おばあ様の言った「私のせいかも」という言葉は、この話のことなのだろう。

「私は人間が心底嫌いになり、貴族の通う学院には通わず、軍部士官学校に入隊した。その方が他人との関わりが少なくてすむ。そうしているうちに感情の昂りや情熱、悲しみや怒りも全く感じなくなっていた。ただ、女や子供の泣き声と政治の話……それだけは虫酸が走るほど嫌だったが……」
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