あなたを愛しています
私、西村瞳(にしむらひとみ)は結婚して、もうすぐ5年の30歳。夫の(がく)とは、高校で知り合った。


委員会活動が盛んだった私たちの高校。私と学はクラスは違ったが、2年生の時、一緒に広報委員会に所属することになった。


学校の様子や行事、お知らせを校内外に告知するのが仕事の委員会で、私たちはポスター作りや校内誌の作成、学校のHPの更新などを担当していた。


委員会活動に積極的な学。そんな彼の爽やかな容姿と言動に私は、徐々に惹かれて行ったが、告白などという勇気も機会もないまま、時は過ぎて行った。


夏休みも終わり、やがて文化祭の時期となった。その日の委員会は、文化祭告知に関するHPの更新が仕事だったが、たまたま私たち2人だけしか来られなかった。


「よ、よろしくね、西村くん。」


予期せぬシチュエーションに、私がドギマギしながら、そう挨拶すると、普段は柔らかな雰囲気の学が


「あ、ああ。」


と、なんだか素っ気無い。なんともぎこちない空気のまま、2人並んで作業をしていると、パソコンのマウスに手を伸ばそうとした私の手が、偶然、学の手と重なってしまった。


ハッとして、すぐにお互いに手を引っ込め、相手を見る。突然の好きな人とのボディタッチに、すっかりパニックになった私は次の瞬間


「触らないでよ!」


と怒鳴るように言うと、呆然とする学を残して、部屋を飛び出してしまった。


(私、何やってるの・・・。)


あんな言い方しなくてもいいのに、別に彼に触れることが嫌なわけでもないのに・・・後悔と恥ずかしさと彼への申し訳ない気持ちと、いろんなものがごちゃまぜになって、私は自分でも訳がわからないまま、走っていた。


そして、その次の日から、彼は委員会から消えた。


文化祭終了後に予定されている役員の代替わりの際には、後任会長に擬せられていたほど、委員会活動に熱心だった学の突然のボイコット。


「ねぇ、なんか心当たりない?」


困惑した会長から、そう聞かれて、私は何も答えられない。だって、心当たりがあり過ぎるから。


(私のせいだ・・・。)


責任を感じた私は、彼の教室を訪ねるが、会えない。完全に避けられている。


ようやく彼を捕まえられた時、あれから1週間が経ってしまっていた。
< 3 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop