あなたを愛しています
「待って!」


私の顔を見て、足早に離れようとする学を懸命に呼び止める。足は止めてくれたけど、振り向いてはくれない彼。


「ごめんなさい、酷いこと言っちゃって・・・そんなつもりじゃなかったの。」


その私の言葉に、彼の背中がピクリと動く。


「だからお願い、委員会に戻って来て。みんな待ってるから。」


そう言って、頭を下げた私に


平野(ひらの)さんは?」


背を向けたまま、彼が言う。ちなみに「平野」は私の旧姓。


「えっ?」


「平野さんはどうなの?」


「もちろん私もだよ!」


聞かれて、語気を強めて答える私。


「そっか。」


そう言った学は


「なら、よかった。」


そう言いながら、振り向くと、ニコリと笑う。その笑顔に、私のハートはズキュンと撃ち抜かれる。


「本当にごめんなさい。」


自分でもわかるくらいに赤くなってる顔を隠したくて、私は改めて頭を下げる。


「もういいんだ。平野さんに嫌われてるんじゃないって、わかったから。よかった。」


ホッとしたような表情で、そんなことを言われて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった私は


「よかった・・・この次も頑張らなくちゃ。」


と思わず呟いていた。


「えっ、なに?」


学に聞き返され


「ううん、何でもない。」


私は慌てて答えた。


だけど、私のこの時の呟きは彼の耳に届いていて、その言わんとしてたことも、ちゃんとわかっていた。


文化祭の後夜祭で行われた、通称「未成年の主張」。


事前に私には何も言わず、サプライズで登場した学は


「2年B組の広報委員、平野瞳さん!」


と私に呼び掛けて来た。


「は、はい。」


驚きを隠せないまま、返事をした私に


「僕、西村学はあなたのことが大好きです。よろしければ、是非僕の恋人になって下さい。お願いします!」


そう言って頭を下げた。それを受けて、大袈裟ではなく、全校生徒の視線が私に向く。


恥ずかしくて逃げ出したいくらいだったけど、逃げられないし、逃げちゃいけない。


「はい、よろしくお願いします。」


私は精一杯の声で、そう答えると、湧き上がる大歓声と拍手。私はあの光景を絶対に忘れることはないだろう。


「とっても嬉しかった。でも、とっても恥ずかしかったよ。」


早速一緒に歩いた帰り道。私が素直な気持ちをぶつけると


「ごめん。でもせっかくのチャンスだったし、瞳に先に気持ちを伝えさせるのは、男として絶対にダメだと思ったから。」


そう言って、微笑んだ学に


「学の見栄っ張り。」


と返しながら、でも私はそんな彼の気持ちが嬉しかった。
< 4 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop