あなたを愛しています
それからちょうど1年後、私の26歳の誕生日に、私たちは結婚式を挙げた。


「瞳の誕生日だから、もともと大切な日だけど、これで俺達にとっては、何よりも、大事な日になったな。」


学のその言葉が、嬉しかった。


結婚を機に、私は仕事を辞め、家庭に入った。私が寿退社をすることがわかると、多くの人から


「早まらない方がいいよ。」
「もったいなぁ。」


挙句の果てに


「寿退社なんて今どき、はやらないし、そんなのバカバカしいでしょ。」


とまで言われた。その一方で


「みんな、本当は羨ましいんだよ。奥さんに専業させられる旦那なんて、今はそんなに多くないんだからさ。だから気にしない方がいいよ。」


なんて声もあって、自分の決断がこんなに波紋を呼ぶとはと、正直驚いた。


私は自分の母親を見ていて、自分もこうしたい、こうなりたいと自然に思ったし、何よりも少しでも早くママになりたかった。ママになったら、子供と一緒に居て、時間を共有したい。それが私の希望だった。


そんな私の思いに、もちろん学も賛成してくれた。


「『嫁さんを家に閉じ込めておいたら、暇持て余して、浮気されるぞ。』って脅かされたよ。」


なんて言って苦笑いしてたけど、その一方で


「『なんだかんだ言って、男は奥さんに「あなた、お帰りなさい。」ってお出迎えしてもらえる生活に憧れてるんだ。つまり、単なるやっかみだ、気にするな。』って、フォロ-してくれる人もいたからな。」


とも言っていた。いずこも同じような話をしてるんだなって、笑ってしまった。


それから・・・私たちは穏やかで幸せな時間を、共に過ごして来たと思う。だけど1つだけ、大きな誤算と言うか、想定外のことが。それは現時点において、子供を授かれていないこと。ひょっとして、何か問題でもと、夫婦揃って検査も受けたけど、特に異常は見つからなかった。


「お気持ちはわかりますが、こればかりは授かりものですから。焦らず、自然に任せることです。」


診察してくれたお医者さんは、穏やかな表情で私たちを諭すように言った。


そして1年前から、私は近くのコンビニで働き始めた。時間を持て余したのもあるし、正直、子育てもしてないのに、ずっと家にいるのが申し訳なくなったから。


「そんなこと気にしなくていいのに。俺がなんの心配もなく働けるのは、瞳が家をしっかり守ってくれてるお陰なんだから。でも瞳がそうしたいなら、俺は反対しないよ。ただ、無理だけは絶対にしないでくれよな。」


私が相談すると、学は優しく言ってくれた。
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