あなたを愛しています
お風呂から出た学がジャージに着替えていると、洗面所に置き忘れられていた私の携帯に手が触れて、床に落としてしまったらしい。慌てて拾い上げて、壊れてないか確認していると、ふと、普段私が誰とどんなやり取りをしているのか、気になって、思わず携帯を開いてしまったんだそう。ちなみに若い頃から、私は携帯にロックなんか掛けたことがない。


メ-ルボックスを開くと、学専用のホルダ-と他の友人、親きょうだい用ホルダ-とあともう1つ。なんだこれはと開いてみれば、明らかに男から送られて来たラブラブメールの数々。瞬間、かつて友人から言われた、「嫁を専業なんかにすれば、暇持て余して不倫するぞ。」という言葉が甦ってきて、カッと頭に血が上って、怒鳴り込んで来たということのよう。


そのメールボックスの正体は「独身時代に、学が私に送って来たメールが収納されている」ものだった。そこには、彼が前の携帯から送って来た、それこそ古くは学生時代のメールもあり、当然今読めば、赤面ものの内容も含まれている。私が携帯を変えなかったのは、それらが見られなくなってしまうのが嫌だったからだ。


「つまらん疑いをかけてしまったことはもちろん、それ以前に携帯を勝手に見るなんて、最低なルール違反だ。本当にごめんなさい。」


食卓には着いたものの、尚も悄然としている学に


「奥さんの浮気を追求する時には、メールくらいじゃ証拠にならないんだって。だからもっと慎重にやらないと。」


からかうように私は言ったけど


「本当にごめん・・・。」


すっかりしょげてる彼がさすがに可哀想になって


「別に携帯なんか、見たければいつでもどうぞ。」


と言ってあげる。驚く学に


「だって、あんなこと、私にメ-ルしてくれる人は、この世に学しかいないんだから。だからもっと自信をお持ち下さい。愛しの旦那様。」


私はそう言って笑った。


「瞳・・・本当にごめん。」


「だから、もういいって。さぁ、冷めちゃうから、食べようよ。」


私の言葉に、学は嬉しそうに頷いた。


次のお休みの日、学は私を携帯ショップに連れてってくれた。私の携帯があまりにも年季が入っていることに、改めて驚いた彼が、スマホをプレゼントしてくれたのだ。


「古い携帯は、充電すれば、ちゃんと中は見られるよ。」


学はそう言って、私を安心させてくれた。


それから、私たちの連絡ツ-ルはLINEになり、学の携帯もロックが掛からなくなった。見たいと思ったことなんか、1度もないけど・・・ね。
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