堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 どちらが話しましょうか、という意味を込めた視線を、エレオノーラはジルベルトに送ってみた。彼の目は頼む、と言っているようにしか見えなかった。言葉が無くても、彼の考えがわかるようになったのは進歩と呼べるのかもしれない。むしろ、進展だろうか。

「あ、はい。兄からの紹介です」
 そこでエレオノーラは上品に笑んだ。ジルベルトの婚約者は知的で余裕のある大人の女性でなければならないのだ。だから、あたふたしてはならない、余裕をもたなければならない。そういった女性を演じる。

「エレオノーラ嬢の兄? ああ、もしかして第零騎士団の?」

「はい。陛下もご存知でしたか?」

「第零騎士団のフランシア家と言えば、有名だからね。あそこには三人息子がいたね」

「はい、兄は三人おります。一番上の兄が、ジル様と仲が良いので」
 厳密に言えば、今は仲が良い、だが嘘ではない。

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