堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 とそのとき、この談話室の扉が乱暴に開いた。

「ちょっと。ジルが。あのジルが女の子を連れてきてるって聞いたんだけど」

 赤ん坊を器用に片手で抱きかかえた女性が現れた。
 ジルベルトはそっとエレオノーラの耳元で「王妃殿下だ」と囁く。
 彼女はまたジルベルトの婚約者という仮面を落としそうになってしまう。危ない危ない。

「お初にお目にかかります。エレオノーラ・フランシアです」
 エレオノーラはすっと立ち上がって、挨拶をした。

「まあ、あなたが」
 王妃はゆっくりとエレオノーラに近づいてきた。彼女の腕の中の赤ん坊は機嫌がいいのか、あぶあぶと言っている。
「ジルったら、団長になってから私たちの護衛から外れるし」

「それは、団員たちをとりまとめて指示を出す必要があるからだ」
 言い訳のようにも聞こえるが正論である。

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