堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「おい、ソフィア」
 ジルベルトが立ち上がった。
「悪いが、彼女はあまり身体が丈夫ではない。だから、そういった無理な話をするな」
 エレオノーラの病弱設定を覚えていてくれたジルベルト。エレオノーラさえ忘れてしまいそうになる、その設定。

「まあ、ジルが怒った。珍しい」
 ソフィアは娘をエレオノーラから受け取り、口元だけで笑う。

「でも、ソフィア。彼女はあまり社交界にも出ていないようだからね。体が丈夫ではないっていうのは、ジルベルトが今思いついた嘘では無いようだから、そういった無理な話はしないように」
 たまにはいいことを言う。今思いついた嘘ではなく、前からついている嘘であるが正解なのだが。

「あら、あなただって彼女のことが気になっているでしょう? あのジルが見初めた娘ですもの」

「そう、だからね、私もいいことを思いついたんだ」
 先ほどいいことを言うと思ったことは撤回。まったくこの夫婦は何を言っているのか。次から次へと。

「フランシア家の御息女のことで思い出したことが一つあってね。今、身体が丈夫ではないっていうことで、ピンときた。エレオノーラ嬢は外国語が非常に得意だよね。学院の成績でも他の者よりとびぬけてよかったはずだ」

 それは、外国の方への諜報活動もあるかもしれない、と思ったエレオノーラが、外国語は特に力をいれて勉強していたからだ。

「だからさ、私たちの通訳の仕事をしないかい?」

「陛下」
 ジルベルトが本気で怒った。
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