堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 沈黙。

「あの、ジル様」
 それ以上の沈黙が怖かったので、エレオノーラはジルベルトの名を呼んだ。ジルベルトは口元だけに笑みを浮かべてエレオノーラを見つめる。だけど、彼女を見つめるその目はどこか優しい。

 エレオノーラもふっと笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「今日は、その。楽しかったです。一緒にお出かけができて」

「私と一緒にこうやって出掛けられたことが楽しかったと、そう言っているのか?」

 返事をせずに、エレオノーラは頷く。
「できればまた、このように二人でお出かけができたらいいな、と思います」

 それを聞いたジルベルトが、より一層、彼女の頭をその胸に押し付けた。言葉で表現することができず、ついつい力が入ってしまう。

「ジル様、苦しいです」
 胸元の顔がそう言った。

「ああ、すまない」

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