堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 鋭く目を光らせる。そして今度は彼女の腰に手を回し、強引に彼女の細い身体を引き寄せた。

「きゃ」
 マリーはその力に負けてしまい、アンディの胸に頭を預ける形になってしまった。

「俺と一緒になれば、不自由しないと思うのだが?」

「私は不自由しない暮らしは望んでいないわ」
 そこでもマリーは口の端をあげ、妖艶に笑う。この状況においてもこの余裕のある笑み。

「マリー。だったら、君の望みは?」
 彼女の望みなら叶えたい、という思い。

「刺激のある暮らし」
 そこでマリーはすっと立ち上がった。
「ごめんなさい、アンディ。もう次の仕事の時間なの。私、売れっ子だから」

「ああ、知ってる」

「またね」
 鎖の長い革のバッグを肘にかけて、颯爽と去っていく。その後ろ姿も申し分無い。

 逃げられれば追いかけたくなる。
 アンディはなんとかして彼女を自分のものにできないか、ということを考え始めていた。彼女を組み敷いて、彼女の全てを暴きたい。そして、彼女を自分だけのものにしたい、と。
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