堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 さて、輪の中に消えたジルベルトとエレオノーラは、踊っていた。とりあえず一曲は踊ってきなさい、と母親から言われたジルベルトは義務を果たすかのようにエレオノーラをダンスに誘ったのだ。
 エレオノーラと踊ることに不満は無い。むしろ、踊ることでエレオノーラの存在を周囲に知られることが不満だった。今も彼女に視線が集まっているように感じる。

「ジル様、とてもダンスがお上手ですね」
 踊りながらジルベルトに声をかけるエレオノーラ。

「あなたに恥をかかせないように、と、密かに練習をしていた」

「まあ。そんなジル様も見てみたかったです」
 エレオノーラははにかみながら答える。

「エレンは、その。ダンスも上手いな」

「潜入調査の賜物ですね」

「つまり、エレンは他の人と踊ったことがある、と?」
 なぜか不安になってしまうジルベルト。何に対して不安になっているのか、自分自身わかっていない。

「え、ええ。まあ。はい。任務上」
 歯切れ悪く答えるエレオノーラ。任務だから仕方ないでしょう、という意味を込め。

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