堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「いつもの」
 それを悟られないように、カウンターの向こうのバーテンダーに声をかけ、マリーの隣にゆっくりと座った。彼女の方を見ずに、視線はそう、飲み物を準備しているバーテンダーに向けて。

「それで、どうだった? 例のパーティは。参加したのでしょう?」
 彼女は少しこちらに視線を向けてから言い、オレンジ色の液体を一口飲んだ。
 アンディはその喉元にさえついつい見入ってしまう。その液体と同じように、彼女の体中を駆け巡りたいという思いが生まれる。

 目の前に黙ってグラスが置かれる。いつものだ。それをアンディは手にする。彼女の質問に答える前に、それを一口飲んだ。喉に刺激を与えるそれが心地よい。これで少し、落ち着きを取り戻す。

「ここでは、あれだな。奥へ行こう」

「あら、珍しい。上じゃなくていいの?」
 驚きの表情を浮かべる彼女。たまにはいつもと違う自分を見せるのも悪くは無いかもしれない。

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