堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 ふむ、とアンディは顎に手をあて、そこをさすった。マリーの言うことも一理ある。薬を打ってしまえばこちらに抵抗はしてこないだろう。場合によっては洗脳することも可能だ。彼が扱っているのはそういう薬なのだから。

「さすがマリーだな」
 それを想像しただけで笑みがこぼれてくる。墜ちていく婚約者を目にした時のあれの顔。

「だって、私。お嬢様って嫌いなんだもん。お高くとまっていて。たかが貴族に生まれただけのくせに、ってね。だからね、そんなお嬢様が堕ちていくところ。想像しただけでぞくぞくしちゃうのよね」
 首を傾けて笑むと、またグラスを口元に運んだ。彼女が口をつけたそこには、真っ赤な口紅が光っている。それをそっと指で拭う。
 その仕草もアンディにとっては刺激的だ。彼女の横顔はそれとなく妖艶。

「それがマリーの望みなら、叶えようか?」
 彼女のその唇を、自分にも這わせてくれないだろうか。自分にもその痕をつけてくれないだろうか。
「ただし、一つ条件がある」
 そこでアンディは右手の人差し指を立てた。

「何かしら?」
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