堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「そうか?」
 そのジルベルトの言葉に、こくこくとエレオノーラは頷いた。

「私も馬には乗れます。ジル様もそろそろお忘れになっているかもしれませんが、私、一応騎士ですので」

「そうだな」
 ジルベルトは少し寂しそうに顔を歪めると、エレオノーラを抱きなおした。彼女は馬にまたがる形になった。そのためのずぼん姿なのだから。
 エレオノーラは手綱を手にすると、両脇の下からジルベルトの手がぬーっと伸びてきた。片方の手は手綱を持ち、片方の手でエレオノーラのお腹を抱える。その手が少しくすぐったい。

「ふむ、これも悪くはないな」

 今度は耳の近くでジルベルトの声が聞こえてきた。これはこれで、疲れるかもしれない。身体が疲れるのではない。どちらかというと、心の疲弊。
 エレオノーラが恥ずかしくなって下を向くと、うなじがジルベルトから丸見えになってしまった。別にジルベルトもうなじが好きとかそういうわけではないのだが、その彼女のうなじの脇、つまり耳の下あたりが赤く染まっていることに気付いた。それがあまりにも可愛らしいので、彼はそこに唇を落とした。

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