堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「お飲み物もありますよ」
 水筒を取り出して、カップへと注ぐ。
「どうぞ」

「ああ、ありがとう。どれから食べたらいいか、迷ってしまうな」
 ジルベルトがバスケットの中身を見ながら難しい顔をしていたのは、どのサンドイッチから食べたらいいか、ということを悩んでいたらしい。

「好きなだけ食べてください。ここには私とジル様しかいませんから、他の人に取られたりしませんよ?」
 兄弟の多いエレオノーラにとって、おやつ争奪戦は幼い時には日常茶飯事だった。特に男三人がよくやっていたことを思い出す。だが、ジルベルトは他に兄弟がいない。リガウン侯爵家の一人息子。きっとそんなおやつ争奪戦は繰り広げられることはなかったんだろうな、と思う。

 ジルベルトがなかなかサンドイッチに手を出さないので、エレオノーラは適当に一つ、彼の前に差し出してみた。だが、ジルベルトはそれに見向きもせずに、バスケットの中身をじーっと見つめている。そう、見つめているだけ。
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