堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

　見ているだけでは腹にたまらない、と言うのに。

「ジル様。お口をあけてもらってもいいですか？」

　ジルベルトはバスケットの中身から目を離さない。なぜにそんなにそれを見つめているのか。何か珍しいものでもあるのだろうか、と聞きたいくらいに。
　それでも、彼が口をポカンと開けたので、そこにエレオノーラは手にしたサンドイッチを突っ込んでみた。
　ジルベルトは、突然口の中に現れたサンドイッチに驚きつつも、もぐもぐと咀嚼する。

「美味しいですか？」
　エレオノーラが尋ねると、無言で頷く。

「これはサラダか？」
　やっとジルベルトの視線が動いた。エレオノーラにそれを向ける。

「正解です」
　彼女はニッコリと笑みを浮かべると、残りのサンドイッチは自分で食べてしまった。
「ジル様。早く食べないと、私が全部食べてしまいますよ」