堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 エレオノーラは大きな木の幹に寄り掛かって、足を放り投げて座り、そして目を閉じていた。頬を撫でつける風が心地よくて、ついつい眠りへと誘われてしまう。どこまでも続く青い空と、温かな日差し。その日差しはこの木の幹が遮ってくれている。
 ふっと、太ももの辺りが重くなった。なんだろうと思って目を開けると、ジルベルトと目が合った。ジルベルトがエレオノーラの太ももに頭を乗せ、寝転んでいる。

「少し休んだら戻ろうか」

 ジルベルトがエレオノーラを見上げながら言った。エレオノーラは頷くと共に、ジルベルトの額に手を置いて優しく撫でた。その手の平からジルベルトの体温が、じんわりと伝わってきた。

「ジル様。今日は私のために時間を割いていただき、ありがとうございます」
 エレオノーラは心からそう思っていた。

「いや、礼を言うのは私の方だ。今日はとても穏やかな時間を過ごすことができた」
 普段の騎士としての仕事では過ごすことのできない、穏やかな時間。彼女と一緒だから過ごすことのできたこの時間。

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