堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

　マリーはオレンジ色が注がれているグラスを手にして、奥のボックス席へと向かう。アンディもその後ろについていくが、目の前の紫色のお尻の動きについつい目を奪われてしまう。このドレスが彼女の身体のラインをアンディに教えているのだ。

「アンディ。あなた、本当に騎士団の団長に手を出すつもりがあるのかしら？」
　そのボックス席に座るや否や、マリーの口から出てきた言葉はそれだった。

「どういう意味だ？」
　アンディは怪訝そうに眉と眉を寄せ、ゆっくりとマリーの方向に首を振る。

「言葉の通りだけれど」
　そこで彼女は足を組んだ。上にした右太もものスリットが、アンディを誘っているようにも見える。いや、誘っているのだ。この話に乗れ、と。
「あなたが、本当にあの堅物に手を出すつもりがあるなら、私はとっておきの情報を教えてあげるわ」
　そこでマリーは手にしているオレンジ色の液体を掲げ、まるで獲物を狩るかのようにそれをじっと見つめている。オレンジ色であるのに、光の加減によっては人の血の色にも見えてくるのが不思議だった。