堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 マリーが手にしていたグラスの氷が鳴った。グラスは汗をかき始めたようだ。アンディの心の中も、少し汗をかき始めた。それは少し急いでいるせいかもしれない。この事の成り行きの顛末の。

「だが、あの堅物が屋敷まで送り届けるのではないか?」
 それが不安。気持ちが落ち着かない原因。何しろあの婚約者にベタ惚れの堅物だ。彼女を離さないのではないだろうか。

「そうね。だから、屋敷の手前で偽の迎えを出すのよ」
 アンディの不安に対して、マリーは軽々と答えを出す。

「どうやって?」

 アンディのそれに、ふう、とマリーは大きくため息をついた。
「少しくらい、自分で考えたら?」

 冷たい視線だった。今までこのような視線を彼女から向けられたことはあっただろうか。否。
 考えを悟られないように、アンディはグラスに口をつけた。しきりに脳内を回転させ、どうやったらあの堅物から婚約者を奪うことができるのか、ということを考える。

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