堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「エレン」
 彼女を連れて部屋を移動すると、そこには案の定、騎士団の服に身を包む男が二人。第一騎士団団長ジルベルトと、第零騎士団諜報部部長のダニエル。エレオノーラにとって馴染みの深い二人。

「彼女に何をした」
 百八十を超える長身、さらに今日も髪型はオールバック。そんな迫力あるジルベルトが、低い声で言った。
 マリーはにたりと笑みを浮かべたまま答えない。

「彼女に何をした、と聞いているんだ」
 普段のジルベルトからは想像できない声だった。いや、騎士としての彼はそうなのかもしれない。だが、エレオノーラはそのような彼を見たことが無い。

「まだ、何もしていないわよ。まだ、ね」
 顔を傾けて、マリーは答えた。マリーは左手で彼女の腕をしっかりと掴んでその背後に立っている。空いている右手で、彼女の首元を狙うことも可能だ。だが、今はまだそれをしない。

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