堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「マリー」
 驚いたグリフィン公爵は腕の力を抜いてしまった。
 だから彼女の身体がずるりと落ちてしまう。だがこの腕の中の彼女よりもマリーの方が大事だ。
「マリー」
 彼女に近寄って左膝を床につき、その口元に耳を傾けると、呼吸が止まっているように感じる。

「き、貴様!! よくもマリーを」

 グリフィン公爵はジルベルトを見上げ、ジルベルトはグリフィン公爵を見下ろしていた。ジルベルトの後ろでダニエルが動く気配がした。倒れている彼女を介抱するのだろう。

「おい。大丈夫か」
 と、彼女に声をかけているダニエル。
「おい、()()()()()、しっかりしろ」

 その名ではっと気づくグリフィン公爵。
 ウェンディ、だと? このジルベルトの婚約者の名前はそんな名前だったか? あのパーティで二人そろって挨拶をしていたではないか。
 グリフィン公爵はダニエルと倒れている彼女から目を離せなかった。

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