堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「そうだ。マリーは息をしていなかった。このジルベルトに殺されたんだ。なのに、なぜ?」
 腰をついたグリフィン公爵の姿はどこか間抜けにも見えてくる。

「ごめんなさい、アンディ。私、死んだふりは得意なの」
 そこで妖艶に笑うマリーのような彼女。マリーとマリーではない別の誰かが重なって見える。

「お前は、マリーじゃない。お前は、一体誰だ?」
 グリフィン公爵は腰をついた間抜け姿のまま、わなわなと身体を震わせていた。認めるのが怖かった。マリーがマリーではない、ということを。

「私? 私は」

 あるときは酒場の店員、あるときは娼館の娼婦、あるときは高級レストランの料理人、でもその正体は。
 という決め台詞とポーズを考えてダニエルに伝えたところ、あえなく却下されてしまったため、普通に名乗るしかない。いつかこの決め台詞を口にできる日はやってくるのだろうか。と、淡い期待を抱きながら。

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