堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 エレオノーラは泣きそうな笑みを浮かべた。自分の至らなかった点を、ジルベルトは補ってくれる。
 そんな彼女の顔は笑っているように見えるけれど、目尻が下がって今にも涙が溢れそうだ。

「ごめんなさい。あの、本当に怖かったんです」
 それがエレオノーラの心の奥に秘めていた本音。けして吐き出してはならなかった気持ち。

「ああ」
 ずっと一人で敵陣に乗り込んでいたのだ。そのような気持ちになるのも仕方のないことだろう、とジルベルトは思う。
 騎士団は団ということもあり、集団で動くことが原則だ。基本的には単独行動はしない。だから、単独で騎士を動かす第零騎士団はそれだけ異質ということだ。

「冷えてきたな、戻ろう」
 ジルベルトは立ち上がり、エレオノーラに向かって手を差し出したが、エレオノーラはそれを取らない。

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