堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 カツン、カツン……。

「あの、ジル様」
 その沈黙を破り、エレオノーラが呼んだ。
 だが、返事は無い。返事が無いだけで間違いなく聞こえているはず。だからエレオノーラは言葉を続ける。

「ジル様はやはり、こういった、大人な女性がお好みなのでしょうか? 多分、ジル様には知的美人かセクシー美人がお似合いになるのかなと思っているのですが」
 ピタッと足を止めた。多分、ジルベルトは何かを考え込んでいるのだろう。

「まあ、そういうエレンも悪くはないが」
 そして彼は再び歩き出す。
「いつも言っている通り、あなたはあなたのままでいい」
 ジルベルトはいつもの言葉をいつもの通り伝えた。それを聞いたエレオノーラが少し震えたことに、背中から伝わってきた。

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