堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

　エレオノーラは視線を落として、静かに答えた。今の彼女に婚約者を辞めないでくれと言っても逆効果かもしれない。そう考えたジルベルト。
「そうか。あなたがそこまで言うなら」
　と彼が言うと、エレオノーラは一筋の涙を流した。恐らくその涙が彼女の気持ちを物語っている。

　ジルベルトはエレオノーラの頬を優しく撫でる。

「婚約者は辞めて、私の妻にならないか？　婚約者としてふさわしくない、というのであれば、妻ならどうだ？」
　婚約者は辞めてもいい。それが、ジルベルトが導き出した答え。だけど、婚約者を辞めると同時に結婚したい、ということ。

「え？」

「私はあなたを一生手放す気は無い」

　そこでジルベルトはエレオノーラの背中に両手を回して、彼女をゆっくりと抱きしめた。