堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「まあ、エレン。浮かない顔をしてどうしたのかしら? 新しい部屋はお気に召さない?」
 とそんな彼女に声をかけたのは、ジルベルトの母。つまり、エレオノーラから見たら義理の母親。
 二人は今、向い合ってリガウン家のサロンで仲良くお茶を飲んでいるところ。

「いえ、そんなことありません。お義母さま。素敵なお部屋をありがとうございます。ただ」

「ただ?」
 義母が、どうしたのかしら、という意味も込めて首を傾けた。

「一緒にいるべき人がいない、と言いますか。一応、新婚なはずなのに?」

 一般的には新婚に分類されるはずなのに、思わず疑問形になってしまうエレオノーラ。結婚して一月程度であれば見事に新婚である。だけどそれに自信がもてない。

「せっかく素敵なお部屋をいただいたのに。あんなに広くて素敵な寝台に毎日一人で寝ているんです。何かの嫌がらせですかね? なんなんですかね? 気持ち的には初夜を待っていたのに、旦那様が来なかった、っていう毎日そんな気分なんです」
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